定年離婚はなぜ起こる?定年離婚の理由とメリット・デメリット

「定年離婚」とはなにか

近年増加している熟年離婚。熟年離婚とは一般的に、20年以上の婚姻生活を経て離婚することを指しますが、こうした熟年離婚の中には、夫の定年を機に、長年連れ添った夫婦がそれぞれ別の道を歩き出す「定年離婚」というものがあります。
「定年離婚」で特に多く見受けられるのは、専業主婦の妻から夫に別れを切り出すケースです。
では、専業主婦の妻はなぜ、夫の定年というタイミングでの離婚を選択するのでしょうか?
本記事では、「定年離婚」が起こる理由と、そのメリット・デメリットについてご説明します。

なぜ定年が離婚のタイミングになりやすいのか?

理由その1:夫と一日中顔を合わさねばならない

これまで毎日会社に行っていた夫が、定年を機に、自宅に籠もりっきりになることがあります。相思相愛の夫婦であれば喜ばしいことかも知れませんが、長年の結婚生活の間に、夫に対する不信・不満を抱えてきた専業主婦の妻にとって、家で夫と顔を突き合わせる時間が増えることは苦痛なものです。

妻が夫に対して抱く不信・不満の原因としては、具体的には以下のようなものがあります。

夫と性格や価値観が合わない

夫婦にとって、性格や価値観の不一致は大きな問題です。夫婦は本来、助け合い寄り添い合って生きていくものですが、相手の性格や価値観が、自分にとって理解に苦しむほどのものだった場合、そのような相手と長時間向き合わねばならないことは苦しいものです。
また、そうした思いが高じると、相手の些細な行為ですら嫌なものに感じられることもあります。例えば、ご飯の食べ方や汚れた洗濯物の出し方…今までさほど気にしていなかったことが、夫の定年を機に急に気になりだし、生理的嫌悪感を抱くようになるケースも多いのです。

夫の浮気・不倫

夫の浮気・不倫は、夫婦の結婚生活に亀裂を入れる大きな裏切り行為です。しかし、経済力がない専業主婦の妻は、夫の浮気・不倫を泣く泣く耐え忍び、結婚生活を続けざるを得ないこともあります。とは言え、裏切りによって傷つけられた心は、そう簡単に癒やされるものではありませんし、心の奥深くでは、夫への不信・不満は溜まっています。そんな状態で、夫と長時間一緒にいることは、心情的にかなり厳しいものだと言えましょう。

夫からの精神的・肉体的虐待

夫からの精神的・肉体的虐待は、モラルハラスメントやDVなどと呼ばれます。「お前には生きている価値がない」、「お前はバカでどうしようもない」などと言う暴言はモラルハラスメントや精神的DVに当たり、実際に暴力を振るう行為は身体的DVに当たります。これらは、不信・不満を通り越し、犯罪行為と言っても過言ではありません(注)。

注:どのような行為が犯罪に当たるかは、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。

その他、夫のギャンブルや過度の飲酒など

競馬やパチンコなどのギャンブル依存や、過度の飲酒によるアルコール依存は、本人だけではなく家族も不幸にします。ギャンブル依存の夫を持つ妻は、夫がギャンブルや飲酒のために散財してしまうため、経済的に逼迫しています。ギャンブル依存・アルコール依存の夫は、これまで仕事があることで辛うじて生活バランスが取れていたかも知れませんが、定年により時間的制約がなくなることで、以前より一層、ギャンブルや飲酒にのめり込む恐れがあります。そのような夫に対して、妻は更なる不信・不満を感じるようになる可能性があります。

その他、妻が夫に抱く不信・不満には、

  • 姑と折り合いが悪いのにかばってくれない
  • 家庭を顧みない
  • 妻に関心がない

など様々にあります。

理由その2:「定年離婚」は、専業主婦の妻にとって経済的に有利な場合が多い

専業主婦の妻が離婚を考えるにあたり、大きな悩みとなるのが経済的問題です。夫を支えるため家庭に入った専業主婦は、それによって離職した期間が長ければ長いほど、再就職が難しくなります。
しかし、夫の定年は、専業主婦の妻が経済的に有利に離婚できる最適なタイミングという見方もあります。その具体的な理由としては、「退職金を含めた財産分与」や「年金分割」がありますが、詳細は後述の「定年離婚後の生活費はどうなる?」でご説明します。

「定年離婚」で生活はどう変わる?

定年離婚のメリット:夫と一日中顔を突き合わせるストレスから開放される

「定年離婚」の一番のメリットは、これまで悩まされてきた夫というストレスから開放され、自由に自分の道を歩めるようになる、ということが挙げられます。妻が専業主婦の場合は、夫が外で活躍できるよう長らくサポート役に徹してきた方も多いと思います。これまでは夫に尽くしてきたけれども、自分自身のために自由に生きたい、と考える方には、「定年離婚」はメリットがあると言えます。

定年離婚のデメリット1:経済的に苦しくなる可能性も

専業主婦だった妻が、いざ離婚となり一人で生きていこうと思ったとき、職探しは重要な問題です。しかし、家庭に入り離職した期間が長ければ長いほど、待遇の良い就職先は見つかりにくいのが現状です。そうなると充分な収入を得られず、婚姻時よりも生活レベルが落ちる可能性すらあります。
したがって離婚前には、離婚後に得られる収入についてきちんとシミュレーションをした上で、財産分与など経済的取り決めにおいてしっかり自分の権利を守れるよう、弁護士に相談することも一つの手です。

定年離婚のデメリット2:パートナー不在による孤独感を抱く可能性あり

離婚を考えるくらいですから、妻の夫に対する愛情は薄らぎ、場合によっては嫌悪感を持っている場合もあるでしょう。しかし、そうは言っても長年連れ添ってきた相手です。いざ離婚となり一人になったとき、パートナー不在による孤独感を抱く可能性もあります。
一緒にいるときは、相手の短所にばかり目が行っていても、実際に離れてみると相手の長所が恋しくなった、というケースもよく聞く話です。夫に対し本当に思い残す気持ちがないのか、離婚前にじっくりと、自分の心の奥を見つめ直すことが大事です。

「定年離婚」後の生活費はどうなる?

離婚で大きな問題となるのは、主に子どものこととお金のことです。まず子どもに関しては、「定年離婚」の場合には子どもがすでに成人している場合も多いため、本記事では割愛します。次にお金のことですが、これは非常に重要です。生きていく上では、お金は必ずかかります。専業主婦の妻は、婚姻時は夫から生活していけるだけのお金を渡されていたと思いますが、離婚後はそのお金がなくなります。
それでは、「定年離婚」後の生活費は、どのように賄ったらよいのでしょうか。

退職金を含めた財産分与で生活費を賄う

一つには、退職金を含めた財産分与で生活費を賄う、という方法があります。
会社員・公務員の夫が定年まで勤め上げた場合には、通常、退職金を受け取れます。厚生労働省や経団連の調査によれば、大卒者が定年まで勤めた場合の退職金平均額は、2,000万円を超えるそうです。夫がこのような多額の退職金を得られるのは、妻が夫を支えてきたからとも言えますので、離婚時にこの退職金を含めた財産分与を請求したいと思うのは、当然のことでしょう。

なお、妻が退職金を含めた財産分与を受ける際には、

  • ①夫がすでに退職金を受け取っている場合
  • ②夫がまだ退職金を受け取っていない場合

に分けて考える必要があります。

①夫がすでに退職金を受け取っている場合

夫がすでに退職金を受け取っている場合には、夫の退職金の額に
実質的な婚姻期間(同居期間)
退職金の支給にかかる勤務年数
を考慮した特殊な計算によって、妻に財産分与される金額を算出します。

注意すべき点としては、退職金相当額が手元に残っているかどうかです。住宅ローンの返済などですでに使ってしまった場合、退職金を含めた財産分与はできませんので、同じ離婚をするのであれば、夫が定年になり、退職金が入った瞬間に離婚するのが得策、という見方もあります。

②夫がまだ退職金を受け取っていない場合

離婚する時点で、夫がまだ退職金を受け取っていない場合、基本的には退職金を含めた財産分与はできません。なぜならば財産分与とは、離婚時の夫婦共有財産を分けることを意味するため、将来もらえるかどうか不確実な退職金までは、財産分与の対象にできないのです。
しかし、退職金の算出方法が会社の規定できちんと決まっており、退職自体もあと数年という状況であれば、将来に退職金を得る蓋然性が高いため、退職金を含めた財産分与ができる可能性もあります。

年金分割で生活費を賄う

もう一つの方法として、年金分割で生活費を賄うという方法もあります。
年金分割とは、平成16年に導入された比較的新しい制度です。従来の年金制度では、専業主婦の妻が離婚した場合、受給できる年金は会社員・公務員の夫よりも絶対的に少ないものとなっていました。しかし、年金分割の制度ができたことにより、会社員・公務員の夫が支払った年金保険料の一部を、妻の年金として受け取れるようになり、専業主婦の妻でも、ある程度の老後が保障されるようになりました。

ただし、分割対象となるのは、配偶者が婚姻期間中に支払った年金保険料に限ります。したがって、年金分割の恩恵を最大限に受けようとする場合は、夫の定年まで婚姻期間を延ばすということも一つの方法です。

なお年金分割については、下記の記事で詳しくご説明していますので、そちらもご参照下さい。

「定年離婚」を切り出す前に、弁護士へ相談を!

「定年離婚」は婚姻解消だけの問題ではない

「定年離婚」は、婚姻解消だけの問題ではありません。本記事で触れたように、退職金を含めた財産分与や年金分割という経済的側面、老後の孤独感といった心理的側面、更には、相続や介護といった独特の家族問題をもはらんでいます。
夫婦の離婚問題は、ただでさえ感情的になりやすいものですが、そこにこれらの問題が加わるとなると、誰しも頭がいっぱいになり、追い詰められた気持ちになるものです。

そこで重要なのは、「定年離婚」を切り出す前に、冷静なブレーンとなる弁護士に相談する、ということです。 
 

弁護士に相談するメリット

弁護士は、離婚問題の専門家であり、依頼者の代理人として相手方と交渉することができます。離婚する当事者が交渉しようとしても、感情的になって話が前に進まないことが多いですが、弁護士が依頼者の代理人になることによって、冷静に、かつ専門知識をもって、依頼者が有利になるよう話を進めてくれます。

弁護士は、けっして敷居の高い存在ではありません。身構えることなく、まずは一度、弁護士に相談してみましょう。きっと良いアドバイスが受けられるはずです!

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