国際離婚には要注意!親権があっても子どもだけ日本へ帰れなかった判例も…

国際離婚の子どもの手続き

国際離婚をする前に絶対に知っておきたい「ハーグ条約」

「子の連れ去り」を防止するために作られたハーグ条約

外国に住んで国際離婚を考えている人が、絶対に知っておきたいことがあります。それは「ハーグ条約」という国際間の取り決めです。こんな言い方をすると、まるでハーグ条約が“子どもを連れて帰国させないための悪徳条約”のようですが、けっしてそうではありません。

そもそもハーグ条約ができたのは、国際結婚が増加し、離婚後に相手がパートナーの了承なく本国に子を連れ去ってしまう事件が多発したためです。正式には「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といい、日本も2014年にこの条約を締結し、世界91か国目の加盟国となりました。

このハーグ条約を日本が締結する前は、日本から外国に子どもが連れ去られた場合、親は自力で居所を探し出して裁判所に返還請求をしなければなりませんでした。また、外国で暮らす日本人が、我が子を連れて一時帰国をしたくても、裁判所に認めてもらえないという問題もありました。それがハーグ条約を締結したことにより、双方の国の国際協力によって、問題をスムーズに対処することができるようになったのです。

親権をとっても、子の帰国を認めてもらえないケースがある

その反面、このハーグ条約があることで、デメリットがあることも事実です。それは外国で国際離婚をした日本人女性が子どもを連れて帰国したくても、「条約に基づく返還請求が確保されない」と言う理由から、外国の裁判所などで帰国を認めてもらえないケースがあることです。たとえ女性が親権を持っていても、裁判所が認めてくれなければ、母子で帰国することはできません。

ハーグ条約は、子を元の居住国に変換することを原則としています。どちらの親が子どもの世話をすべきかの判断も、子の元の居住国で行われるべきだとしています。そのために、国際結婚をして外国で暮らしていた日本人女性が離婚をして親権をとっても、おいそれとは子どもを連れて帰れないわけです。

さらに、日本人は「子どもは母親のもとで育てるのが幸せ」という意識を持っていますが、外国では離婚によって夫婦の関係が終わっても、子育ては引き続き協力し合うというパターンが多々あります。そうした国際間の意識のズレも、この問題に関係していると言えるでしょう。ハーフの子どもの人権を守る筈の法律が、かえって母と子どもを苦しめてしまうこともあるのですね。

子どもの国籍が日本でも出国できない

「でも、うちの子どもの国籍は日本だから、当然出国できるのでは?」と考えるかもしれませんが、実はこれもNGです。たとえ子どもの国籍が日本であっても、住んでいる国の裁判所が認めなければ、子どもの出国はできません。

母親が子どもの親権を取り、なおかつ子どもの国籍が日本でも出国できないという、驚きの事実!外国で暮らして離婚を考える日本人女性は、まずこのことをしっかりと頭に入れて、子どもと引き裂かれるようなことがないよう十分に調べておく必要があるでしょう。

DV夫から逃げて帰国した母子が、引き裂かれてしまうことも

外国で夫のDVなどを受け、子どもを連れて逃げるように帰国した母と子が、このハーグ条約によって子どもだけ本国へ返還されてしまうケースもあります。子どもが母親と暮らすことを望んでいたとしても、本国の判断で無理やりに引き離され、もしも法律にそむけば罰せられてしまいます。

あまりにも理不尽な話ですが、ハーグ条約が「本国に戻す」ということを原則にしているため、このような悲惨な状況も生まれてしまうのです。

国際離婚で実際にあった事例

外国のDV夫が子どもを本国に戻そうとしたAさんの事例

夫との生活に疲れ子どもを連れて帰国したAさん

Aさんは国際結婚をし、夫の国で子どもと3人で暮らしていました。ところが、夫は自己中心的な性格で、Aさんが自分の思い通りに動かないと「俺の言うことが聞けないなら、日本に帰れ!」と怒鳴りつけました。

さらに夫はAさんに生活費を渡さず、育児に協力することもなく、Aさんに暴力をふるうこともしばしばありました。思い余ったAさんが「離婚をしたい」と切り出すと、夫は「勝手にしろ」と言い、協議離婚が成立。Aさんは子どもを連れて日本に帰りました。

子どもを自分の国に引き戻そうとする元夫

ところが離婚後、夫から「子どもを連れてこい」という連絡が入りました。「連れてこなければ、誘拐になるぞ」とも脅し始めたのです。

Aさんが国際離婚に詳しい弁護士に相談したところ、弁護士は「もしも子どもを連れて行った場合、相手に出国停止をされてしまうと、日本に帰れなくなります。

これと同じパターンで日本に帰れない日本人は、他にも大勢います」と教えてくれました。

Aさんは弁護士に依頼をし、問題の解決に向けてやり取りを重ねています。国際離婚がいかに難しいかを、身に染みて実感したAさんでした。

欧米と日本との間にある、“子育て観”の温度差

日本人にとっての“当たり前”が通用しない国際社会

日本人的な感覚では、上記のような事例を聞くと「夫のことが原因で離婚をした妻が、子どもを連れて日本に帰ることがなぜそんなに難しいことなのか?」と思うでしょう。

婚姻時ならまだしも離婚をした後まで外国に住む必要はまったくなく、むしろ日本であれば安心して子育てができると考えるのは、当然のこととも言えます。

しかし、欧米諸国が子どもを連れて帰国する母を見たときにどう思うかというと、「日本人女性が無断で子どもを連れ去る事件」というとらえ方になってしまうようです。外国に住んでいながら勝手に子どもを連れて自分の国に行ってしまうとは、何たることかということなのでしょう。

これはどちらが正しいという問題ではなく、欧米と日本との間にある意識の違いとしか、言いようがありません。国際結婚をした以上、日本人にとっての“当たり前”が通用しない国際社会に身を置いていることを、嫌でも思い知らされるのです。

国際離婚は極めて慎重に行うことが大切

日本人同士の離婚は“本人同士の問題”ですが、国際離婚は“国と国との問題”であることを、まずは認識することが大切です。

そして、もしも子どもがいるならば、その子と国を隔てて暮らさなければならない可能性があることも覚悟しなければならないでしょう。安易な国際離婚が身の破綻を招くということは、重々承知しておく必要があります。

それでもどうしても離婚せざるを得ない場合は、ハーグ条約のことや相手の国の法律のことを徹底的に調べておく必要があります。国際離婚に詳しい弁護士に相談をしながら、何が最善の道なのかを、模索していくしかありません。

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